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大阪地方裁判所 平成11年(行ウ)23号 判決 2000年12月07日

原告

右訴訟代理人弁護士

水野武夫

籠池信宏

野村高志

右訴訟復代理人弁護士

阿部秀一郎

被告

港税務署長 菰田寛

右指定代理人

黒田純江

原田一信

高谷昌樹

甲斐憲征

小田正典

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  請求の趣旨

被告が、原告の平成四年分ないし平成六年分所得税について、平成九年二月二五日付けでした原告の平成七年一〇月二〇日付け更正の請求に対する棄却処分を取り消す。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

被告が、原告の平成四年分及び平成五年分所得税について、平成九年二月二五日付けでした原告の平成七年一〇月二〇日付け更正の請求に対する棄却処分の取消しを求める訴えをいずれも却下する。

2  本案の答弁

主文と同旨

第二事案の概要

本件は、生命保険会社と原告との間で締結された代理店契約に基づき生命保険会社の支払う代理店報酬につき、原告は右報酬が自己の勤務する会社に帰属する旨の確定申告をし、原告の勤務する右会社は法人税の申告において右代理店報酬を益金に算入するとともに、生命保険会社が源泉徴収した税額を法人税の額から控除していたところ、右会社は、法人税の調査において右税額控除はできないとの指摘を受け、修正申告をしたため、原告が、右源泉徴収税額の還付を受ける目的で、本件代理店報酬は原告に帰属する旨の更正の請求をしたところ、右更正の請求に対する棄却処分がされたので、その取消しを求めるものである。

一  前提事実(当事者間に争いのない事実及び容易に認定できる事実)

1  原告は、株式会社Aに勤務し、給与所得を得ていたが、平成三年四月一二日、B株式会社との間で、募集代理店委託契約(乙一、以下「本件代理店契約」という。)を締結した。

Bは、本件代理店契約に基づき支払われる報酬(以下「本件代理店報酬」という。)について、源泉徴収(以下「本件源泉徴収」という。)を行った残額をC銀行船場支店の原告名義の普通預金口座に振り込み、本件源泉徴収税額を所轄税務署長に納付していた。

2  原告は、平成四年分ないし平成六年分の所得税について、当時の所轄税務署長であった奈良税務署長に対し、以下のとおり、確定申告(以下「本件確定申告」という。)をした、これは、Bの支払った本件代理店報酬はAに帰属するから、本件代理店報酬に係る事業所得の金額及び源泉徴収額はいずれも零であるとし、Aからの給与所得のみが自己の所得となるとしたものである。

(一) 平成四年分所得税(甲四の1、確定申告日は平成五年三月一五日)

(1) 総所得金額 六〇九万六〇〇〇円

内訳 給与所得金額 六〇九万六〇〇〇円

(2) 源泉徴収税額 四七万八八〇〇円

(3) 納付すべき税額 三万円

(二) 平成五年分所得税(甲五の1、確定申告日は平成六年三月一五日)

(1) 総所得金額 七九八万四三〇四円

内訳 給与所得金額 七九八万四三〇四円

(2) 源泉徴収税額 七六万八六〇〇円

(3) 納付すべき税額 二万円

(三) 平成六年分所得税(甲六の1、確定申告日は平成六年三月一五日)

(1) 総所得金額 四三五万円

内訳 給与所得金額 四三五万円

(2) 源泉徴収税額 一 八万六四〇〇円

(3) 納付すべき税額 零円

3  Aは、平成四年四月一日から平成五年三月三一日まで、平成五年四月一日から平成六年三月三一日まで、平成六年四月一日から平成七年三月三一日までの各事業年度の法人税の申告において、本件代理店報酬について本件源泉徴収税額を含めた全額を益金に算入するとともに、本件源泉徴収税額を未払法人税として経理処分し、これを法人税額から控除して、それぞれ法定申告期限内に法人税の確定申告をしていた。

4  Aは、平成七年六月ころ、所轄税務署である大阪西税務署から、法人税法六八条一項の税額控除の対象となるのは所得税法一七四条に規定する課税標準に係る所得税額であり、本件源泉徴収税額は所得税法二〇四条によるものであるから税額控除ができない旨の指摘を受け、平成七年八月二一日に修正申告をした。

5  原告は、平成七年一〇月二〇日、被告に対し、本件源泉徴収額について還付を求める目的で、右各所得税につき、以下の内容の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。これは、本件代理店報酬が原告に帰属するとの前提に立って、<1>本件代理店報酬を事業所得における収入金額であるとし、<2>本件代理店報酬から本件源泉徴収税額相当額を差し引いた金額(Aが受領した額)を仕入金額とし、<3>その差額、すなわち、本件源泉徴収税額相当額が原告の事業所得金額であるとしたものである。

(一) 平成四年分所得税(甲四の2)

(1) 総所得金額 六七一万〇七八三円

内訳 事業所得金額 六一万四七八三円

給与所得金額 六〇九万六〇〇〇円

(2) 源泉徴収税額 一〇九万三五八三円

(3) 納付すべき税額 △四六万一九八三円(還付金)

(二) 平成五年分所得税(甲五の2)

(1) 総所得金額 九〇〇万一二七〇円

内訳 事業所得金額 一〇一万六九六六円

給与所得金額 七九八万四三〇四円

(2) 源泉徴収税額 一七八万五五六六円

(3) 納付すべき税額 △七四万七五六六円(還付金)

(三) 平成六年分所得税(甲六の2)

(1) 総所得金額 四八八万〇〇五二円

内訳 事業所得金額 五三万〇〇五二円

給与所得金額 四三五万円

(2) 源泉徴収税額 七一万六四五二円

(3) 納付すべき税額 △四八万七六五二円(還付金)

6  原告は、平成八年五月二九日、住所地を肩書住所地に移転したので、所轄税務署長は被告となった。

7  被告は、平成平成九年二月二五日、原告に対し、本件更正の請求につき、平成四年分及び平成五年分については更正の請求期限を経過しているから、平成六年分については本件代理店報酬は原告に帰属していないからとして、いずれについても更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件各処分」という。)をした。

8  原告は、平成九年四月一八日、被告に対し、本件処分につき異議申立てをしたが、被告は、平成九年七月七日、これを棄却する旨の決定をした。

9  原告は、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は、平成一〇年一二月一四日、これを棄却する旨の裁決(乙三)をし、同月一七日に原告にこれを通知した。

二  争点及び当事者の主張

1  平成四年分及び平成五年分の所得税に係る本件更正の請求は不適法であるか。

(一) 被告の主張

国税通則法二三条一項によれば、更正の請求は国税の法定申告期限から一年以内に限りすることができるものとされているから、原告の平成四年分の所得税の更正の請求期限は平成六年三月一五日、平成五年分のそれは平成七年三月一五日となるところ、原告が平成四年分及び平成五年分の更正の請求をしたのは、平成七年一〇月二〇日であるから、いずれも更正の請求の期限を経過した不適法なものである。

したがって、平成四年分及び平成五年分の所得税に係る更正の請求の棄却処分の取消しを求める訴えは却下されるべきである。

(二) 原告の主張

Aの税務・会計顧問である税理士兼公認会計士の乙は、平成七年一〇月二〇日、原告の所得税の所轄税務署長であった奈良税務署長に対して、本件更正の請求をした。これに先立ち、乙は、原告がした本件確定申告はAの都合でしたものであり、原告の関知しないものであること等の事情を、奈良税務署の担当職員に説明し、確定申告はなかったものとして新たに確定申告書を提出すべく、期限後申告をする旨申し出たところ、右担当職員は、原告の平成四年分及び平成五年分の更正の請求期限は経過しているが、Aの法人税の修正申告によるものであるので、期限経過に関わりなく、更正の請求をするのが妥当である旨の説明をした。また、Aの顧問税理士である丙は、Aの関係者につき複数の税務署において同様の問題が発生していることから、奈良税務署においてまとめて問題を処理することになったとの連絡を受け、乙とともに奈良税務署において事情を説明した上、納税者に有利になる職権による更正は五年間可能であるので(国税通則法七〇条二項一号)、納税者からの更正請求期限が経過したという理由で請求を排斥することのないよう念押しをした。これに対して、当時の奈良税務署副署長であった本田昭吉は、税法上当然に個人に還付すべきものであれば、期限経過を理由にした却下はしない旨回答した。乙は、その後、港税務署を含む関係各署における事情聴取においても、期限未経過分と同様に資料提出及び釈明を求められており、これも期限経過としては処理されない旨を原告に信頼させる被告らの更なる行為が存在したことを示すとともに、期限経過としては処理しない被告らの方針を表すものである。

そうすると、被告が期限経過を理由に平成四年分及び平成五年分所得税に関する更正の請求を棄却する処分をしたのは信義則に反し違法であるし、本訴において右処分に関する訴えの却下を求めるのも、信義則に反する。

2  本件代理店報酬はAに帰属するか、原告に帰属するか。

(一) 被告の主張

所得税法一二条は、事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属する旨規定している。これによれば、収益の帰属主体は、契約者名義等が誰であるかにかかわらず、その収益について支配的影響力を及ぼす者が誰であるか、また、誰の収入に帰したかにより決せられるべきであるところ、本件代理店契約における原告の名義は形式上のものにすぎず、実質的には当該契約に係る業務はすべてAが行っているから、本件代理店報酬はAに帰属する。

(二) 原告の主張

原告は、本件代理店契約を締結する際に、Aとの間で、本件代理店報酬は原告に帰属し、本件代理店報酬から本件源泉徴収額を差し引いた金額を業界の慣習に従い顧客紹介手数料としてAに支払うこと及び預金通帳の管理、資金の移動、計算書類等の保管及び源泉徴収された所得税の処理等については、サービスとしてAが行うことを内容とする委託契約をした。

法人税法一二条の解釈についての法律的帰属説によれば、原告とBとの本件代理店契約に基づき、本件代理店報酬が原告に支払われている以上、本件代理店報酬は原告の所得となる。

これに対して、経済的帰属説によっても、前記のとおり、原告とAとの間には、顧客の紹介等に関する委託契約が結ばれており、その契約に基づき対価として原告からAに対して金員が支払われているのであるから、Aに帰属するのは委託契約に基づく対価であり、本件代理店報酬はAに帰属するものではない。

第三当裁判所の判断

一  前記認定事実に証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。

1  Aは、平成二年四月に設立され、主として生命保険の募集に関する業務及び損害保険代理業を営んでおり、原告は同年四月二六日からAに勤務して保険募集業務に従事し、Aから給与の支給を受けていた。

2  Aは、生命保険についてはD相互会社と代理店契約を締結していたが、その後、他の生命保険会社の商品をも取り扱う必要が出てきた。しかし、当時、保険募集の取締に関する法律(平成七年六月七日法律第一〇五号により廃止。以下「旧保険業法」という。)一〇条により、複数の生命保険会社の代理店になることはできなかった。他の生命保険会社の商品を扱いたい場合は、その生命保険会社の代理店と事前に交渉をしておき、成約確実になった時点でその代理店との間で業務委託契約を締結し、当該生命保険会社からその代理店報酬から右業務委託契約に基づいて報酬を受け取ることが業界の慣行となっていた。

3  Aの代表取締役丁は、右のような方法では、Aの営業努力により他の代理店に収益をもたらすことになるから、複数の会社を設立して、その会社にD以外の生命保険会社の代理店資格を取得させ、グループ全体の利益を大きくしようと考えた。しかし、当時Aの顧問税理士をしていた戊は、丁の右の提案に対し、複数の会社を設立するのであれば、会社の数に応じた顧問料が必要となると述べたこともあり、丁は、その方法にかわって、縁故者を個人代理店にして、Aこれと業務委託契約を締結する方法を考案した。

4  そこで、丁は、同人の義妹である己、実弟である庚、その妻である辛及びAの従業員である原告及び壬(己、庚、辛、原告及び壬を、以下「原告ら」という。)に各生命保険会社と代理店契約を締結させることとし、原告については、平成三年四月一二日、Bとの間で本件代理店契約を締結させた(乙一)。

5  Bは、所得税法二〇四条一項四号により、本件代理店契約に基づく代理店報酬から源泉所得税を源泉徴収とした額を、原告名義普通預金口座に送金するが、口座の管理はAにおいて行うものとし、Aは右代理店報酬額(当初は右送金額のみであったが、戊税理士の指示により、源泉徴収分をも含むものとされた。)をAの収入として、原告にはAから給与を支払っていた。

6  原告ら名義で代理店契約を締結した各生命保険会社に係る保険募集については、Aが業務を行っていた。原告は、保険代理業務に関する帳簿書類は一切作成していなかった。

7  戊は、原告らの平成四年分及び平成五年分の所得税について、実質所得課税の原則によれば本件代理店報酬はAに帰属するとの考えの下に、源泉徴収額の欄に括弧書きで本件代理店報酬額と源泉徴収額を記入した上、「上記代理店報酬は(株)Aの収益に帰属すべきもので、申告人の所得にはなりません(別紙契約書)」と記載して、本件代理店報酬に係る事業所得の金額及び源泉徴収額はいずれも零である旨(原告については、Aからの給与所得のみが自己の所得となる旨)を確定申告書に記載し、これに原告とAの間の正社員労働契約書(乙二)、Aが発行した源泉徴収票及びBが発行した報酬等の支払調書を添付して確定申告をした。正社員労働契約書には、Bの保険業務に携わることによって得る報酬はすべてAに帰属する旨が明記されていた。そして、戊は、Aの法人税については、各保険会社からAに代理店報酬が支払われて、そこから源泉徴収がされており、右源泉徴収額をAの法人税額から控除するとの内容の確定申告をしていたが、税務署から誤りであるとの指摘を受けることはなかった。

8  平成七年三月ころ、丁は、乙を新たにAの税務・会計顧問に就任させ、原告らの平成六年分の所得税確定申告書を作成することを依頼した。その際、丁は、乙に対し、戊税理士が作成した平成五年分の確定申告書の写し及び関係書類を交付し、原告らが源泉徴収額の還付手続をする手間を省くために戊税理士の指示によりこのようにしているので、これと同じ方法で処理するように依頼した。乙は、原告らが保険会社と代理店契約を結び、原告ら個人とAとの間で顧客紹介の契約を結んでいるのであれば、代理店報酬はAにではなく原告ら個人に帰属する筈であり、生命保険会社も原告ら個人から源泉徴収したという処理をしている(なお、法人に支払う場合は源泉徴収はできない。)のであるから、源泉徴収税額の還付は原告ら個人が行うべきである旨、源泉徴収税額相当額を含めた代理店報酬全額の支払をAが受けるとしても、原告らが確定申告をして源泉徴収税額の還付を受けた上でAに支払うべきである旨、原告らとAの間の関係を示す書面としては、正社員労働契約書(乙二)ではなく、顧客紹介契約書が必要である旨を指摘したが、確定申告期限も迫っていたので、従前の方法で平成六年分の確定申告をした。

9  乙は、法人であるAが源泉徴収額の還付を受けることはできないし、法人税法六八条一項による税額控除の対象となるのは所得税法一七四条に規定する課税標準に係る所得税額であり、本件代理店報酬に係る源泉徴収税額は所得税法二〇四条によるものであるから税額控除ができないと考えたが、Aの法人税についても従前の方法に従い、各保険会社からAに代理店報酬が支払われて、そこから源泉徴収がされており、右源泉徴収額をAの法人税額から控除するとの内容の確定申告をしたところ、Aの所轄税務署である大阪西税務署から右の処理には疑問がある旨の連絡を受けたので、従前の経緯を説明した。

乙は、同じく新たにAの顧問税理士となった丙とともに、大阪西税務署や奈良税務署に赴き、Aが受領できる額は本件代理店報酬から源泉徴収額を控除した額であり、源泉徴収額はAが還付を受けて原告らに返還することになっている旨説明した。また、Aと原告との間の関係について書面を求められたので、原告がAに対して顧客紹介手数料を支払った旨及び今後もBから振込まれる額又は振込まれるべき額を上限として顧客紹介手数料を支払う旨の平成七年八月一八日付け確認書(甲二)を、続いて、原告はBから振込まれた額を顧客紹介手数料としてAに支払い、これを担保するために、原告は振込先の銀行口座の預金通帳及び銀行取引印をAに預けること等を内容とする平成七年一〇月一六日付け覚書(甲三)を作成して、それぞれ、大阪西税務署の法人課税部門に提出した。

結局、大阪西税務署は、右税額控除はできないとして、修正申告を慫慂したので、Aはこれに従うこととなり、丙が修正申告をした。

右の調査の過程で、乙、原告らについては誤った申告をしたことになるので、源泉徴収された額は還付してもられるように原告らの所得税を所轄する各税務署に対して連絡文書を出すことを要請し、その文案(甲一)を大阪西税務署に提出した。

10  乙は、平成七年一〇月二〇日、原告らの所得税について本件更正の請求をした。乙と丙は、原告ら全員の同種問題を一括して検討することになっていた奈良税務署に赴き、誉田副署長に会ったところ、誉田は、営業活動その他一切はAで行っており原告ら個人が代理店であるというのは名義貸しとみられるから、実質所得税課税の原則により、本件代理店報酬はAの所得とすべきもので、原告に対して源泉徴収税額を還付することはできない旨説明したのに対し、乙が、これに反論するとともに、更正の請求期限の経過を理由に排斥することはしないかを質問したところ、誉田は、税法上原告ら個人に還付すべきものであれば、期限経過を理由に排斥することはない旨回答した。

乙は、その後、奈良税務署長の権限を承継した被告を含む関係各署における事情聴取においても、期限未経過分と同様に資料提出及び釈明を求められた。

二  争点1について

前記認定事実によれば、平成四年分及び平成五年分の各所得税に係る更正の請求については更正の請求期限経過後にされたものと認められる。原告は、更正の請求期限の経過を理由に更正の請求を排斥することは信義則に反する旨主張するが、右に認定したように、奈良税務署の誉田副署長は、税法上原告ら個人に還付すべきものであれば、期限経過を理由に排斥することはない旨回答した事実は認められるものの、これは、原告ら個人に還付すべきものであるとの結論に達する職権で更正するという趣旨に理解され、原告ら個人に還付すべきでないとの結論に達した場合に、更正の請求期限を経過しているから更正をすべき理由がない旨の本件処分をしたことが信義則に反するものとはいえない。その前後の調査の過程においても、本件更正の請求を期限経過を理由に排斥することが信義則に反することを根拠づける事実は認められない。

そうすると、本件各処分のうち、平成四年及び平成五年分の各所得税に係る更正の請求について、更正の請求期限経過後にされたことを理由として、更正をすべき理由がないとした各処分は適法である。

なお、被告は、原告の平成四年分及び平成五年分に係る訴えを却下することを求めているが、更正の請求が期限経過後にされていたからといって、更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消しを求める訴えが不適法であるとすべき理由はなく、右各処分が適法であるから原告の請求を棄却すべきものとなるにすぎない。

三  争点2について

原告は、原告とBとの間の本件代理店契約に基づき、本件代理店報酬が原告に支払われており、また、原告とAとの間には、顧客の紹介等に関する委託契約が結ばれ、その契約に基づき対価として原告からAに対して金員が支払われているのであるから、Aに帰属するのは委託契約に基づく対価であるとして、本件代理店報酬はAに帰属するものではない旨の主張をする。しかし、前記認定の事実によれば、本件代理店契約は、旧保険業法一〇条による規制を免れるために締結されたもので、原告は代理店業務に係る帳簿書類等も作成しておらず、本件代理店報酬の受領も実質的にはAが行っており、結局、原告の勤務するAにおいてBに係る生命保険の募集を行った場合に、代理店としての原告の名義を利用してBと生命保険契約を締結したもので、原告は、いわば名義貸しをしているにすぎず、独立して保険代理業を行ったものとは認められない。

そうすると、所得税法一二条により、本件代理店報酬はAに帰属するものというべきであり、本件各処分のうち、平成六年分の所得税に係る更正の請求について右理由により更正をすべき理由がないとした処分は適法である。

第四結論

以上によれば、原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下郁夫 裁判官 青木亮 裁判官 山田真依子)

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